Guitar Pro,その他TAB譜作成ソフトについて
今回はギターのTAB譜やバンドスコアの作成ができるソフトウェア,Guitar Proについての私見.
宣伝ではなく,あくまで私見です. もっと言えば雑談のようなものです.
なお,2021年9月1日現在,Guitar Proのバージョンは7.5です.
おすすめできる方
- ギターやベースの経験がある
- TuxGuitarよりも高品質なTAB譜やバンドスコアを作りたい
- 超ハイクオリティまでは求めていない
- 1万円くらいなら出しても良い
これらを満たす方は満足して使っていけると思います.
上は自分の曲のセルフアレンジ版の一部です. かなり詰め詰めに書いてますが,Guitar Proの楽譜の仕上がりの感じはつかめるでしょうか.
良いと感じた点
操作感
Guitar Proの音符入力方式が個人的には好みです.
特に,1小節に入る音符の長さが足りないor多い場合も,特に問題なく音符を配置できるのが良い点. (再生時は,不足分は無音で補い,多い分はカットされます.)
私は五線譜を読む機会がほとんどなかったため, 頭の中にあるリズムを五線譜に起こすのが苦手です.
こんなときは,音価は無視してとりあえず音を並べ,その後に音価を変えてリズムを調整するのですが この操作がTuxGuitar以上にスムーズにできます. 音符の追加,削除,音価の変更のコマンドさえ覚えれば,トライアンドエラーで高速に記譜できるのが何よりも魅力.
ただし音高の変更は,MacではShift+Option+十字キーと無駄に押すキーが多いのが難点. あとに述べますが,現状はショートカットキーの変更ができないのが少々痛いポイント.
再生機能
再生時の音はそれなりに高品質です. また,速度変更(%指定),再生時のみのキー変更はギターの練習にも使える便利機能.
いちいちダウンチューニングしなくてもいいように,練習時はキーを上げて練習する,といったケースに使えるでしょうか.
キーを変えると同じ曲でも新鮮に感じるので,アレンジの確認に使ってみるのも良いかもしれませんね.
コスパ
出力楽譜の品質や操作性の高さと値段のバランスが良いと感じました.
日本の代理店で買うと1万数千円ですが,セール時に海外のサイトから直接購入すると7000円ほどで買えます. ちなみに1個のライセンスで3台のマシンが登録できます.
楽譜作成の定番ソフトといえばFinaleやSibelius. これらはフルバージョンの値段がかなり高いです. 値段相応,楽譜はGuitar Pro以上に綺麗に仕上げられるのですが,そこまで求めていないのであれば単にコストが高いと感じるでしょう.
一方,無料でTAB譜を作る方法もいくつかあります.
以下にソフトウェアを挙げておきます. それぞれ,無料というメリットはありますが,実用するには何かしら課題点があります.
- TuxGuitar
無料でTAB譜といえばまず最初に上がるのはこれではないでしょうか. 無料という素晴らしいメリットこそありますが,それ以外はGuitar Proの下位互換に感じます. 特に楽譜の仕上がりが汚いことと音符の入力方式が個人的にはマイナスですね. ちなみに,Guitar Proで作られたデータを開くことができます.たまにバグるけど…
- Power Tab Editor
TuxGuitar同様,フリーでTAB譜といえば挙がるソフト. 評価も同じく,フリーは魅力だが仕上がりが妙に汚いのがマイナスポイント.
- MuseScore
汎用の楽譜作成ソフト. Guitar Proに対してTuxGuitarがあるならば,こちらはFinaleやSibeliusに対してMuseScoreがある,という位置づけ.
それほど凝ったTAB譜を作らないとか,五線譜のみで作る場合はMuseScoreはいい選択肢だと思います.
TAB譜に特化しているわけではないので,TAB譜を作る際は不便に感じる点が多いです. 特に,2小節以上の繰り返しができない点,ミュートなどのギター特有の演奏表現が苦手な点は気になります. TAB譜上の数字が変に切れるとか,変なところで表示上のバグがあります. 本格的なものを作ろうと思うと,いろいろなところで壁に当たりがち.
ただ,できないことは少なく,工夫次第である程度の要望は実現できます. その工夫がめんどくさかったり,再生はめちゃくちゃになるなどの問題もありますが.
楽譜の品質は,まぁ十分かなといった具合. 五線譜はGuitar Proとどっこいどっこい. TAB譜はGuitar Proのほうが良いと感じます.
全体的に,Guitar Proよりフォントや音符が微妙に太く感じます. 設定次第でなんとかなるのかもしれませんが.
例:music21(Pythonの音楽情報処理ライブラリ)
クラウドサービス型の楽譜作成ソフトウェアです. 無料版とサブスク課金型のプレミアム版?があります. 作れる楽譜の品質はMuseScoreに近いです.
TAB譜やバンドスコアを作る目的であれば,現状では課金版でも機能不足です. 個人的には16分音符のスウィングが設定できないのが大問題.
- Lilypond
Lilypondはこれまでに挙げた楽譜作成ソフトとはまったく異なる,浄書特化のソフトウェアです. 楽譜のTeXのようなもので,テキストベースで記譜し,それをもとに浄書を行います. 仕上がりこそFinaleなど第一線級のソフトウェアにまったく引けを取らない素晴らしい品質なのですが, 使い方や記法を覚えるコストが高すぎるため,おすすめはしません.
ただ,出力がぶっちぎりで高品質な点はやはり魅力ですね.
MuseScore同様,楽譜データを画像やPDFに変換するときに使われることがあります.
- VeXTab
こちらはソフトウェアではなく,Javascriptのライブラリです. テキストベースで簡単にTAB譜が書けます. 数小節のフレーズをウェブサイトに貼りたい時に有用です.
VeXTabについては別記事で紹介しているので興味があればどうぞ.
makungoron-music.hatenablog.com
残念な点
謎のバグ
2021年9月1日現在,macOSかつ日本語入力を使っているとショートカットキーがバグり,まともに使えなくなるというバグがあります.
また,MIDIキーボードを入力に使えるはずですが,私の環境だとなぜか反応しない(正確には,反応してからすぐ切れる)バグがあります.
音符がないところにコードネームを置けない
これはMuseScoreにも共通する課題点.
バンドスコアを作ると,ボーカルが一番上になることが多いと思います. このとき,コードが置けるのはボーカルの音符or休符の真上のみとなります.(正確には,一番上のパート)
そのため,ボーカルが全音符のときは頭に1個しかコードを置けず,小節内のコードの切り替えを表現できません. 休符を無理やり区切ればできないこともないのですが,見た目がダサくなります.
一番上以外のパートにコードを配置することもできますが,そのパートの上にコードネームが出るだけで, よく見る「ボーカルの上にコードネームが書いてある」という構造が綺麗に作れないのが残念.
小節中の調号・音部記号変更ができない
五線譜の記譜で,小節の途中で調号や音部記号を変更できません. 変更しようとするとその小節の先頭からの変更になってしまいます.
市販のピアノ譜では割とよく見かける書き方である分,非対応なのは残念です.
書けないものがある
- 3小節以上の繰り返し記号
- ブラッシングに使う,ちょっと大きいバツ印(五線譜側) が実装されていません.
ブラッシングやミュートは,下のような記号で表記することになります.
後半の大きいバツ印は「ゴーストノートでスラップ」という名前がついています. アタック音の表現に使えないこともないのですが, 符尾が消えるのでリズムがわからなくなってしまいます.
MuseScoreでは裏技的に無理やり配置する技がありますが, Guitar Proではできないことは諦めるしかありません.
プロレベルの浄書は厳しい
浄書機能はそれほど充実していないので,よく整えられたFinaleの楽譜と比べるとちょっと見劣りします. ただ,オンラインで公開するとか,TAB譜付き演奏動画を作りたい,といった目的であれば十分すぎる品質です.
ショートカットキーが変更できない
ショートカットキーのカスタムができません.
音価の変更は+
または-
を入力するのですが,JIS配列では+
はShiftを押しながらセミコロン;
です.
テンキーを使えば一発なのですが,数字も横並びの方で入力する私にとって+
のためだけに手をテンキー側に持っていく方がめんどくさい.
その上Shift+;
という微妙なコマンド.
早くカスタム実装してください.
さらに,F7キーも問題. F7キーをカタカナ変換に使っている方も多いと思いますが, Guitar ProではF7はスタイルシート編集のショートカットキーとなっているのでカタカナ変換ができません.
…といっても,曲名や作曲者の欄,歌詞を書くときしか問題になりませんが. 名前を付けて保存などでは普通に使えます.
+
と-
が隣接しているし,
F7含めファンクションキーはあまり使わない環境です.というか,JIS配列の記号配置がめちゃくちゃなのが問題なんですが…
まとめ
まず操作性は大変好み. その上出力の品質もそこそこ高く,よほどこだわらない限りは不満点はなし. 特にギタリスト・ベーシストで,そこそこ高品質なTAB譜を作りたい方にはおすすめしたいです.