音律:平均律
まず、音律って何だろう
音律というのは、一言で言えばそれぞれの音の高さ(音高)の決め方です。
音律には平均律のほかにもありますが、それぞれ、音高の関係の決め方が違います。
音の高さを表す言葉として、音程という言葉がありますよね。
聞き慣れないとは思いますが、音高という言葉もあります。 こちらは何かの理論書の序章あたりで、話をわかりやすくするために勝手に定義した言葉だったと思いますが、使いやすいので私の説明にも使わせていただきます。両者にははっきりとした違いがあります。まとめると、
- 音程: ある音から見たときの、相対的な高さ。単位は○○度
- 音高: その音自身の絶対的な高さ。単位は基本的にはHz( = /sec)
工学系の知識をお持ちの方であれば、音高=音の周波数と考えた方がすんなり理解できます。
なぜ平均律が主流なの?
平均律はバランス重視の万能タイプ
現在みなさんが聴いている音楽には、ほぼ全て平均律が使われています。
それは、平均律は他の音律にはない、素晴らしい特徴があります。
まず、平均律の特徴を先取りして知ってしまいましょう。
- 自由に転調ができる。
- 自由に、複雑な和音が使える。
- 異名同音が同じ高さの音になる。
平均律の第一の特徴は、自在に転調ができることです。 自在に転調ができるからこそ、作品に転調を気軽に取り入れられるようになったほか、 同じ楽器で色々な調を演奏できるようになりました。
純正律などの他の音律では、「〇〇調で調律する」などと、使用する調を決めなければなりません。 例えばピアノをハ長調の純正律で調律した場合、ハ長調(イ短調)の楽曲は美しく聴こえますが、ホ長調など別の調では気持ち悪いほど狂ってしまいます。また、ハ長調の中でも、音の選びかたによってはかなり濁って聞こえてしまいます。
平均律では、このような問題は発生しません。
同じく重要な特徴として、複雑な和音が使えるようになったことが挙げられます。 テンションノートによる複雑な響きを持つコードは、平均律によってやっと実用されるようになったと言えるでしょう。
異名同音が同じ高さの音になる、というのは、直接的な長所ではないかもしれませんが、非常に重要です。 これによって現在の音楽理論というものは簡潔にまとめられるようになりました。
今となってはもはや当たり前になってしまいましたが、これらの特徴は過去の音楽家にとっては画期的なものでした。 好き勝手に転調しようものなら、その調に調律した同じ楽器を何個も用意しなければなりませんでした。 これでは予算・場所・楽器の持ち替えといった点で厳しいものがあります。
しかし、平均律によって音楽家たちはその悩みから解放され、転調を自分の作品に積極的に取り入れることができるようになりました。 もし平均律が開発されない世界線があったらどうなっていたでしょう?
平均律を数式で
平均律の何が平均的?
平均律と言ってはいますが、皆さんが割り勘などで使うような数値の平均を利用しているわけではありません。
では何が平均的かと言いますと、それぞれの音の微妙なピッチのずれです。
全ての音のピッチが同じだけ微妙に狂っているのが平均律です。
え?ピッチ狂ってるの?別に狂ったようには聞こえないけど?と思うかもしれません。 実際、人間にはあまりわからない程度のずれなので、聞いてもあまり気になりません。
平均律の数式表現
音の高さを何らかの形で表さないといけません。音高を使います。音程は使いません。
平均律のルールは、以下に示すように、たった1つの式で書けます。
平均律の考え方の肝となるのがです。 12回同じ数を掛けると、2になる数ですね。
とある同じ数を12回かけると、2倍の周波数の音…ちょうど1オクターブ高い音になるというわけです。 これがルール上から直接言えるというのは、けっこう大きいことですよ。
驚くことに他の音律では、音律の仕組みをそのまま適用すると1オクターブ高い音がぴったり2倍の周波数になりません。 そのため、音律のルールに従って決定するのは1オクターブ内の音高だけにとどめておき、 オクターブ高い/低い音はそれの2倍・0.5倍の周波数を使って作っています。
まとめ
平均律の考え方は非常にシンプルです。
オクターブの音以外は全て微妙に狂っている、という事実に初めは驚くかもしれません。 しかし、平均律によって音楽家たちは自由な転調や複雑な和音を獲得し、 さらなる自由な表現が可能になりました。 そして、それらを巧みに使った素晴らしい楽曲は、現在にも多く伝わっています。